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広島地方裁判所 昭和50年(行ウ)10号 判決

尾道市栗原西二丁目二番一七号

原告

黒瀬広行

右訴訟代理人弁護士

山口高明

尾道市東御所町一〇番三四号

被告

尾道税務署長

竹本次郎

右指定代理人検事

一志泰滋

同大蔵事務官

吉川定登

三坂節男

杉田泰啓

同法務事務官

三森継男

主文

一  被告が、昭和四九年二月二〇付でなした原告の昭和四五年分所得税につき、総所得金額を七一七万七、四四四円とする更正処分(ただし、審査請求に対する裁決により一部取消後のもの)のうち、七〇一万七、三七四円を超える部分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四九年二月二〇日付でなした原告の昭和四五年分所得税につき総所得金額を七一七万七、四四四円とする更正処分(ただし、審査請求に対する裁決により一部取消後のもの。)のうち一二二万九、二九四円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、船舶用電機修理及び自動車部品の販売等を業としているものであるが、昭和四六年三月三日、被告に対し、昭和四五年分所得税につき原告の総所得金額(事業所得金額)を七五万七、四三〇円として確定申告をしたところ、被告は、昭和四九年二月二〇日付で、総所得金額を一、一九六万三、〇〇六円とする更正処分をなし、その旨原告に通知した。

2  これに対して、原告は、同年四月一八日、被告に対し異議申立てをしたところ、被告は、同年七月三日付で、原処分の一部を取り消し、総所得金額を九〇五万六、六九三円とする決定をなし、その旨原告に通知した。

3  そこで、原告は、同年七月三一日、更に広島国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和五〇年二月二八日付で、原処分の一部を取り消し、総所得金額を七一七万七、四四四円とする裁決をなし、同年三月一五日、その旨原告に通知した。

4  しかしながら、原告の昭和四五年分の総所得金額は、実際に一二二万九、二九四円しかなかったのであるから、被告のなした本件更正処分(ただし、審査請求に対する裁決により一部取消後のもの。以下同じ。)のうち右金額を超える部分には、原告の総所得金額を過大に認定した違法があるので、その取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の各事実は認めるが、同4の事実は否認する。

三  被告の主張

原告の昭和四五年分総所得金額は、以下のとおり事業所得金額四四二万九、八七四円と雑所得金額二七八万三、七〇〇円とを合計した七二一万三、五七四円であるから、右金額の範囲内でなされた本件更正処分には原告の総所得金額を過大に認定した違法はない。

1  事業所得金額 四四二万九、八七四円

(一) 売上金額 三、九六九万七、五三五円

(二) 仕入金額 二、二二九万四、四四二円

明細は別表一のとおりである。

(三) 必要経費 一、二九七万三、二一九円

明細は別表二の標準経費欄(〈5〉ないし〈19〉)及び標準外経費欄(〈22〉ないし〈19〉)のとおりである。

2  雑所得金額 二七八万三、七〇〇円

(一) 原告は、尾道市栗原西二丁目六六九番二、田、地積二〇一坪、実測面積二二〇・六五坪(以下、本件土地という。)につき、所有者の平田源左衛門から売買の斡旋を依頼され、本件土地のうち後記原告取得地九・八一坪を除く二一〇・八四坪を末広商事有限会社に対し坪当り六万五、〇〇〇円で売買の斡旋をなし、右会社から売買代金一、四一四万六、〇五〇円を受領し(昭和四四年九月二四日に手付金二〇〇万円、昭和四五年六月八日に残代金一、二一四万六、〇五〇円)、その中から平田に対し一、二〇〇万円を支払い(昭和四五年一月六日に一〇〇万円、同年六月八日に一、一〇〇万円)、差額二一四万六、〇五〇円を取得した。

(二) また、原告は、本件土地の売買を斡旋したことにより、平田からその対価として本件土地のうち九・八一坪(三二・四四平方メートル)を無償で取得した(分筆後の六六九番四。以下、原告取得地という。)が、右土地は坪当り六万五、〇〇〇円と評価されるから、原告取得地の評価額は六三万七、六五〇円となる。

(三) そして、原告が本件土地売買の斡旋によって得た所得は雑所得に該当するから、前記(一)の売買代金差額二一四万六、〇五〇円と(二)の原告取得地評価額六三万七、六五〇円との合計二七八万三、七〇〇円が雑所得金額となる。

3  仮に、本件土地の売買に係る事実関係が原告の後記主張四の2(二)(三)のとおりであるとしても、以下のとおり原告の雑所得金額に変更はない。

(一) 原告は、末広商事から原告取得地を買い受けるに際し、坪当り二万円しか支払っていないから、時価坪当り六万五、〇〇〇円合計四四万一、四五〇円(四万五〇〇〇円×九・八一)の経済的利益を得たのであり、右利益は仲介手数料として末広商事から原告に支払われたことになる。

すなわち、所得税法の対象となる課税所得は、現金ないし現物の形をとった有形の利得のみでなく、低額譲渡、債務免除等の無形の経済的利益も含まれるのである(所得税法三六条一項)。

(二) 原告の得た右所得は雑所得に該当するから、原告主張の雑所得金額二三四万二、二五〇円に右雑所得金額四四万一、四五〇円を加算した二七八万三、七〇〇円が原告の雑所得金額となる。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

被告主張の事業所得金額及び雑所得金額については以下のとおりいずれも争う。

1  被告の主張1(事業所得金額)について

(一) 売上金額は認める。

(二) 仕入金額は否認する。

被告主張の仕入金額のほかに、さらに材料ないし部品費として九三万一、〇〇〇円が存在する(明細は別表三のとおり)から、仕入金額は二、三二二万五、四四二円となる。

(三) 必要経費は否認する。

被告主張の経費のほかに、さらに次の各経費合計四六一万一、八三〇円が存在する(明細は別表四ないし七のとおり)から、必要経費は合計一、七五八万五、〇四九円となる。

接待交際費 二二七万五、三〇〇円(別表四)

修繕費 七九万七、五三〇円(〃 五)

福利厚生費 七五万二、五〇〇円(〃 六)

外注費 七八万六、五〇〇円(〃 七)

以上のとおりであるから、原告の事業所得金額は一一四万九、〇八六円の欠損となる。

2  被告の主張2(雑所得金額)について

(一) 原告が、本件土地につき被告主張の当事者間の売買の仲介斡旋をし、買主の末広商事から一、四一四万六、〇五〇円を受け取り、うち一、二〇〇万円を売主の平田に支払ったことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

(二) 原告は、平田から本件土地を一、二〇〇万円で売却するよう依頼されていたところ、末広商事は、本件土地の実測地積の二二〇・六五坪全部を坪当り六万五、〇〇〇円合計一、四三四万二、二五〇円で買い受けた。

したがって、原告の雑所得は、末広商事の買受価額一、四三四万二、二五〇円と原告が平田に支払った一、二〇〇万円との差額二三四万二、二五〇円である。

(三) 原告は、本件土地のうち裏側にあり極めて地形の悪い部分九・八一坪(すなわち原告取得地)を末広商事から坪当り二万円合計一九万六、二〇〇円で買い受けた。そして、右代金の支払については、本件土地代金一、四三四万二、二五〇円より先に支払を受けていた手付金二〇〇万円を控除した残代金一、二三四万二、二五〇円を決済する際、末広商事から一九万六、二〇〇円を差し引いた一、二一四万六、〇五〇円の支払を受けて処理したのである。

したがって、原告が本件土地売買斡旋の対価として原告取得地を無償で取得した事実はない。

(四) 仮に、原告が原告取得地を無償取得したものと認められるとしても、土地の無償取得は贈与を受けたことに外ならないから、右無償取得には贈与税が課されるべきで所得税を課すべきでない。また、土地の評価についても相続税財産評価基本通達によって評価された課税価格によるべきである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第三九号証。

2  証人坂本登、原告本人。

3  乙第一、第三、第五、第八号証の成立はいずれも不知、第四、第六、第七、第九、第四〇号証、第四一号証の一ないし三の成立はいずれも認める、その余の乙号各証はいずれも原本の存在と成立を認める。

二  被告

1  乙第一ないし第四〇号証、第四一号証の一ないし三。

2  証人米野哲、同荒木喜義、同浅原敝、同桑名常夫、同重岡蔦夫、同山口平四郎。

3  甲第三四、第三六号証の成立はいずれも不知、その余の甲号各証はすべて成立を認める。

理由

一  請求原因1ないし3の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の昭和四五年分総所得金額について検討する。

1  事業所得金額について

(一)  売上金額が三、九六九万七、五三五円であることは当事者間に争いがない。

(二)  仕入金額として二、二二九万四、四四二円が、また、必要経費として一、二九七万三、二一九円が、少くともそれぞれ存在することは、当事者間に争いがない。

(三)  原告は、右争いのない金額に加え、さらに仕入金額として別表三のとおり九三万一、〇〇〇円が、必要経費として別表四ないし七のとおり合計四六一万一、八三〇円がそれぞれ計上されるべきである旨主張し、これを立証するため、各支払先から発行された領収証を甲第一ないし第三一号証として提出しているところ(成立はすべて争いがない。)

(イ) いずれも原本の存在と成立に争いのない乙第一八ないし第三二号証、同第三六ないし第三九号証、証人山口平四郎、同重岡蔦夫の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すると、原告主張の支払金額のうち、仕入金額四五万七、七〇〇円(別表三の1ないし5((甲第一ないし第五号証に対応)))、必要経費四八万二、九二〇円(別表四の1、同五の1、4、同六の1((甲第八、第一九、第二二、第二三号証に対応)))は、被告主張の金額中に既に計上されていて重複すること、原告提出の前記領収証はすべて、国税不服審判所長に対し審査請求の申立てがなされた後に(すなわち、支払の時から三年以上を経過した後に)、原告が各支払先に要請し日付を本件係争年度に遡らせて発行を受けたものであること、右領収証記載の金額の大部分は原告の指示するところに従いそのとおりに支払先において記入したものであるが、その当時原告のもとには各支払の事実あるいは支払金額を確認し得る帳簿類等の記録は全く保存されておらず、またほとんどの支払先においても事情は同様であり、結局前記領収証の信憑性を担保するものは原告又は支払先の記憶以外にはないこと、ところが、右領収証の中には、支払先において明らかに事実に反することを認識しながら原告から要請されるままに発行したと疑われるものが少なからず存在すること、の各事実が認められ、これに反する証拠はない。

(ロ) してみると、原告提出の各領収証(甲第一ないし第三一号証)は、そのうち一部は被告主張の金額に既に計上されていて重複し、その他の部分についてはその信憑性に多大の疑問を抱かざるを得ないものであるから、右各証拠をもって原告主張の仕入金額及び必要経費認定の資料とすることは到底できないものといわなければならない。そして、他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(四)  以上によれば、原告の昭和四五年分の仕入金額及び必要経費はそれぞれ被告主張の二、二二九万四、四四二円及び一、二九七万三、二一九円の限度に尽きることになるから、原告の事業所得金額は、前記争いのない売上金額三、九六九万七、五三五円から右仕入金額及び必要経費を控除した四四二万九、八七四円となる。

2  雑所得金額について

(一)  原告が平田源左衛門所有の本件土地につき売買の斡旋を行い、買主の末広商事有限会社から一、四一四万六、〇五〇円を受け取り、その中から一、二〇〇万円を売主の平田に支払ったことは、当事者間に争いがない。

(二)  右争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲第三五号証、乙第四、第四〇号証、原本の存在と成立に争いのない乙第一〇号証、証人坂本登の証言により真正に成立したものと認められる甲第三四号証、証人桑名常夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証、証人米野哲(ただし、後記措信しない部分を除く。)、同坂本登の各証言及び原告本人尋問の結果を総合すると、原告が平田から本件土地売買の斡旋を依頼された時には、右土地の実測面積は未だ不明であったところ、平田が原告に示した条件は、実測面積に拘わりなく、本件土地の公簿面積二〇一坪に坪単価六万円を乗じた金額にほぼ見合う一、二〇〇万円以上で売却し、平田には、一、二〇〇万円が支払われればよく、もし実測面積が公簿面積を上回るときには右出歩部分に相当する対価は原告に与えるというものであったこと、そして、原告は、昭和四四年九月ころから末広商事の実質的な経営者である坂本登と本件土地売買につき交渉を重ねた結果、右土地を測量により明らかになった実測面積二二〇・六五坪により坪当り六万五、〇〇〇円代金合計一、四三四万二、二五〇円で売買することに決定したこと、ところで、原告は、本件土地の北側に隣接する不整形の土地(尾道市栗原二丁目六六〇番及び同所六六一番三)を所有していたが、右売買の機会にこれを整形にすべく、そのために本件土地のうち北端部分九・八一坪を坪当り二万円合計一九万六、二〇〇円で買い受けたい旨前記坂本に申し入れたところ、坂本は、本件土地売買斡旋の手数料の支払に代わるものとして原告の右申入れを承諾し、九・八一坪を坪当り二万円の低廉な価額で原告に譲渡することになったこと、その結果原告は、末広商事から本件土地の売買代金一、四三四万二、二五〇円より原告取得地の右代金一九万六、二〇〇円を差し引いた一、四一四万六、〇五〇円の支払を受けて末広商事との関係を決済し、一方平田に対しては、同人との前記約定に従い一、二〇〇万円を支払い、かくして本件土地売買の斡旋を完了したこと、以上の各事実が認められ、証人米野哲の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしたやすく措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  これに対し、被告は、本件土地売買の斡旋にあたり、原告は、本件土地から原告取得地九・八一坪を除いた二一〇・八四坪を末広商事に売り渡し、代金一、四一四万六、〇五〇円の支払を受け、原告取得地は斡旋の対価として平田から直接無償で取得したと主張するが、末広商事が本件土地を坪当り六万五、〇〇〇円で買い受けたことは当事者間に争いがないところであるから、被告の主張に従えば売買代金は一、三七〇万四、六〇〇円(六万五、〇〇〇円×二一〇八四)となるはずであるのに、何故末広商事は右金額を上回る一、四一四万六、〇五〇円を原告に支払ったのかという疑問が生ずるのである。したがって、右の点について合理的な説明がなされない限り、被告の主張は採用することができない。

(四)  ところで、所得税法三六条一項によれば、所得税法による課税の対象となる所得は、金銭に限定されず、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額も右所得に含まれるところ、原告は、原告取得地の時価相当額と右土地買受に際し末広商事に支払った一九万六、二〇〇円との差額に相当する金額を本件土地売買斡旋の対価として得たものというべく(同条二項参照)、右収入金額は所得税法の課税対象となる(なお、原告は右差額部分の利益を売買斡旋の対価として得たのであって、無償で収受したものではないから、右収入金額に相続税法中の贈与税に関する規定を適用する余地はない。)。

しかして、前記(二)において掲げた各証拠に弁論の全趣旨を総合すれば、原告取得地は道路から本件土地の最も奥である北端部分に位置するところ、これがその更に北側に隣接する原告所有地(前記六六〇番及び六六一番三)に加わることにより原告所有地は全体としてほぼ長方形の良好な形状となり、その利用価値が増大することが窺われるのであるが、この点を考慮しても、原告取得地のみの客観的時価は、その位置からして、本件土地全体の坪当り価額が六万五、〇〇〇円であることに照らすと、坪当り四万五、〇〇〇円と評価するのが相当である。

そうすると、原告の得た利益は、原告取得地の時価相当額四四万一、四五〇円(四万五、〇〇〇円×九・八一)から一九万六、二〇〇円を差し引いた二四万五、二五〇円となる。

(五)  以上によれば、原告は、結局、本件土地売買の斡旋をしたことにより、末広商事に対する売買代金一、四三四万二、二五〇円と平田に支払った一、二〇〇万円との差額二三四万二、二五〇円及び原告取得地を低廉な価額で買い受けたことによる前記二四万五、二五〇円の各収入金額を得たことになるが、右各収入金額が所得税法二三条ないし三四条所定の各所得類型に該当しないことは明らかであるから、右各収入金額は雑所得であるとしなければならない。

よって、原告の雑所得金額は二五八万七、五〇〇円となる。

3  右1、2の各事実によれば、原告の昭和四五年分総所得金額は、事業所得金額四四二万九、八七四円と雑所得金額二五八万七、五〇〇円との合計である七〇一万七、三七四円となる。

三  以上の説明によれば、本件更正処分は、右七〇一万七、三七四円を超える部分につき原告の総所得金額を過大に認定した違法があるものと言わねばならず、取消を免れない。

四  よって、原告の本訴請求は右の限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 植杉豊 裁判官 大谷禎男 裁判官 川久保政徳)

別表一

仕入金額

1 部品 一六、五七四、九七三円

2 材料 四、四二八、三七二円

3 燃料 五八二、三八〇円

4 消耗工具 五四六、一九六円

5 設備費 一六二、五二一円

合計 二二、二九四、四四二円

別表二 事業所得損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別表三

〈省略〉

計 九三万一、〇〇〇円

別表四

〈省略〉

計 二二七万五、三〇〇円

別表五

〈省略〉

計 七九万七、五三〇円

別表六

〈省略〉

計 七五万二、五〇〇円

別表七

〈省略〉

計 七八万六、五〇〇円

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